文鳥とトリコモナス症
トップ画像:いつになく真剣なぽん先生(@comatsu_cotoLi)
トリコモナス症は文鳥がかかる病気の中でも特に有名です。
トリコモナス原虫に寄生されることによって感染し、特に幼鳥やヒナが死に至るケースが多い病気です。
しかし、正しい知識を身につけることで予防することができますし、早期に発見できれば幼鳥やヒナでも助けることができます。
しっかり学んでいきましょう。
トリコモナス症は、トリコモナス原虫によって引き起こされる感染症で、幼鳥における死亡率がやや高い病気です。
日本国内の飼い鳥では文鳥に最も多く見られ、ハトやオカメインコでも多発します。
幼鳥に頻発しますが、カナリア、ジュウシマツでは成長でも多数検出されます。
セキセイインコでは稀です。
トリコモナスに感染しても、必ずしもトリコモナス症を発症するわけではありません。
宿主の免疫力によっては、一生を通じて発症しないこともあります。しかしながら、トリコモナス症を発症せず、トリコモナスキャリアとなった個体は、他の個体への汚染源となります。
ヒナや幼鳥は免疫が低いため頻繁に発症します。特に、ショップ等から購入直後の環境変化によって免疫力が低下した際に発症するのが典型例です。
トリコモナス原虫とは?
まず「原虫」について確認しましょう。
原虫は単細胞の微生物です。ゾウリムシやアメーバなどが、よく知られた原虫の仲間です。
原虫細胞の仕組みはウイルスやバクテリア(細菌)よりかなり複雑です。
原虫の中には人や動物に寄生して重い病気を引き起こすものがあり、トリコモナスもその一種です。
トリコモナス以外の文鳥への寄生で有名な原虫に、コクシジウムがいます。
参考:文鳥とコクシジウム症
「トリコモナス」は、「メタモナス類トリコモナス綱トリコモナス目トリコモナス科トリコモナス属」に分類される原虫で、鳥に感染して「トリコモナス症」を起こすのは主に「ハトトリコモナス(Trichomonas gallinae)」という種です。
トリコモナス属の中にはハトトリコモナス以外にも様々な種があり、人に感染する「膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)」も有名です。
トリコモナスが寄生する場所
トリコモナスは口腔内や食道、そ嚢に寄生します。無性生殖(二分裂)を行い、環境が整うと急速に増殖します。
トリコモナスは環境に対する抵抗性が高くないため、通常は胃酸で殺滅されます。したがって、通常は胃より下の消化管に寄生することはありません。
また、トリコモナスは環境変化や乾燥に弱く、宿主の外では短時間しか生存できません。しかし、飲水や水浴び器などの水性環境では長期間生存可能なため、注意が必要です。
トリコモナス症の症状
トリコモナス症は様々な症状を発現します。
軽度の場合は無症状か、食欲不振程度しか見られません。急性症状の場合はほとんど症状が出ないままに突然死してしまう場合があります。
トリコモナス症の初期段階では口の中に白色の斑点が現れる場合があります。これは口腔内でトリコモナス原虫が増殖し、集積したものです。
病状が進行すると餌を食べなくなって体重が減少し、毛並みが乱れて、ぐったりとして沈鬱や嗜眠を呈することがあります。あるいは、立っていられなくなったり、バランスを自力でとれなくなったりすることもあるでしょう。
口腔内の違和感や口腔内粘液の増加により、しきりに舌を動かす様子が見られます。また、アクビの様な仕草や首を振るなどの症状がみられ、粘液の吐出や吐血がみられることもあります。
嘔吐や下痢を伴う場合もあり、これらの症状が現れた場合は顔やお尻の羽毛が汚れます。
トリコモナス症で弱まったところに二次感染が生じ、白色から黄色のチーズ状の膿瘍が口腔や気道、食道、そ嚢に形成されます。緑色の粘液が現れる場合もあります。
膿瘍が気道を狭めてしまうため、呼吸が異様になったり、「パチパチ」「プチプチ」といった音が聞こえたりすることがあります。
参考:文鳥と口内炎
また、そ嚢が腫れるため下顎部や頸部が突出したように見えます。斜頸(病的な理由で首をかしげたような動作を取ること)を起こすことも多いでしょう。
感染が副鼻腔へ広がると、くしゃみや鼻水、結膜炎を起こして眼が充血したりまぶたが腫れたりします。
また、文鳥に特有の症状として、耳の穴(外耳孔)から空胞が突出する(鼓膜が膨らんで耳の外に突出する)ことがあります。
時にトリコモナスは脳にまで達します。中枢神経系に病変を生じると、神経症状や突然死に見舞われる場合もあります。
トリコモナス原虫は投薬によって駆虫できるため、できるだけ早期に異変を認識し、獣医師の診察を受けることが重要です。
トリコモナス症の原因と予防
トリコモナスの感染は複数の経路で生じ得ます。
トリコモナスキャリアの親鳥がヒナへ吐き戻し餌を与える際に感染したり、挿し餌器の使い回しによって感染したりします。
成長どうしでも、餌や飲水を共有することによって感染し、発情中の吐き戻し餌を介して感染する場合もあります。
トリコモナスキャリアの個体と、直接・間接を問わず接触する機会が多いほど感染のリスクは高まると考えましょう。
したがって、予防の第一はトリコモナスキャリアを隔離することですが、トリコモナスに感染していても一生にわたって発症しない個体もあるため、定期的な健康診断が重要です。
また、ショップ等で購入したヒナは早期に健康診断を受けましょう。発症前にトリコモナスを検出できれば、ヒナを助けることができます。また、既に別の鳥を飼育している場合は、新たに迎えたヒナの健康診断が終わるまでは隔離した方が良いでしょう。
トリコモナスは環境変化や乾燥、薬剤に対する抵抗が弱いため、十分に乾燥させるだけでも駆除できます。文鳥はほぼ毎日水浴びをしますから、飼育環境が水浸しになっていないか、餌に水滴が掛かって濡れていないかなどに注意しましょう。
熱湯消毒やアルコール消毒も有効な駆除手段です。定期的なケージや飼育器具の清掃の際に取り入れると、なお良いでしょう。
ところで、最も有効なトリコモナスの予防は繁殖場で駆除施策が徹底されることです。
オカメインコでは繁殖場での駆除施策が一般的になり、現代ではトリコモナスの寄生は稀になったものの、文鳥の繁殖場ではトリコモナスの駆除が一般的になっていないとの情報があります。
オカメインコと文鳥とでは市場価格に差があるため、経済的に難しい面があるのは厳然たる事実であり、短絡的に繁殖場を批判の矢面に立たせるのは的外れでしょう。
しかし、文鳥たちの健康、および文鳥から感染してしまう鳥たちの健康を思えば、文鳥の繁殖場でもトリコモナス対策を一般的にすること、そして、トリコモナス対策が現実に実施可能になるような社会的環境を作り出すことは、非常に重要であると考えられます。
参考文献
書籍
1.
2.
0件のコメント