【文鳥防災】災害発生時編―危機発生の瞬間に備える!
トップ画像:非常食を点検する小羽先生(@erin_mice)
今回の文鳥防災では、災害発生の瞬間に焦点を絞り、具体的な備えを学んでいきます。
防災というと「避難生活をどう過ごすか」という方に意識が向きがちですが、まずは災害発生のその瞬間を無事に生き残ることが重要です。そこで、今回は「危機の瞬間」への備えを考えたいと思います。
ちなみに前回は「基礎知識編」として、ペット防災の基本的な考え方や心構えを学びましたね。
ひとくちに「災害発生時」といっても、様々な可能性があります。地震、台風、冠水、火災、火山噴火など、自然災害自体が多岐にわたっています。
また、「災害発生時に人が家にいるのか、留守なのか」「放鳥しているのか、いないのか」でも状況は異なります。「避難生活」については、ある程度は飼い主が状況をコントロールできる可能性もありますが、「災害発生時」のまさにその瞬間がどうなっているかということは全くコントロールできません。
したがって、災害発生時への備えは様々なシナリオを想定しておき、手を付けやすいところから改善していくことが大切です。「飼い主が家にいて、文鳥がケージに入っている状態での地震しか想定していません」では想定範囲が狭いですが、「あらゆる事態を想定しようとしたら、何をしたらいいか分からなくなった」では何も改善できないからです。
「まずは地震だけでも色々考えてみよう」「ウチの地域は洪水が危険っていう話だから、水害だけには備えておこう」といった考え方で大丈夫ですので、まずは手を付けていくことが重要です。
そのうえで、今回の文鳥防災「災害発生時編」では、「多くの飼い主にとって共通するリスクへの対策」「多くの飼い主にとって着手しやすい対策」という観点から、5つの備えをご紹介します。
備え1:ケージの設置場所を改善する
文鳥が過ごす時間が最も長いケージ(鳥かご)の位置を見直すことは、手軽でありながら、幅広い災害シナリオにおいて有効性の高い備えです。
地震対策という意味では、ケージの安定性が課題になります。ケージをおいている場所は充分な広さがあり、水平で、倒れたりする危険がないように工夫されているか、いま一度チェックしてみましょう。家具の転倒防止グッズは100円ショップでもホームセンターでも、あらゆる場所で安く調達することができますので、手を付けやすい防災対策といえます。
水害対策についても想定するならば、やはり2階以上の高さの部屋にケージを設置したいところです。
平屋に住んでいる場合でも、何もできないわけではありません。そもそも、防災とは関係なく文鳥のケージは人の目線の高さに設置するのが好ましいと言われています。人の目線まで水位が上昇するような破局的な水害はめったにありませんから、「人の目線の高さにケージを置く」というルールを守るだけでもかなりのリスク低減になるでしょう。
参考:文鳥のケージ設置場所
また、「水の勢い」や「浮力」は、地震とは異なるメカニズムで家具を転倒させてきます。床や天井、壁にしっかり固定できるタイプの転倒防止グッズを利用することは、水害対策でも役立ちます。
備え2:驚いた文鳥がどこに行くか観察しておく
地震や火災が放鳥中に発生する可能性もあります。緊急地震速報や火災警報器のサイレン音に驚いた文鳥がどこに逃げ込むのかが分かっていないと、緊急時に文鳥と一緒に家の外へ避難することが難しくなってしまいます。
文鳥は自然界では捕食される側の生き物です。危険を感じればすぐさま飛んで逃げ、じっとして安全を確認しようとします。身体の小さい文鳥が静かに身を潜めてしまえば、すぐに見つけることは難しいでしょう。飼い主自身も災害で緊張している状態であればなおさらです。
「隠れた文鳥を探して、飼い主の避難も遅れる」という最悪の事態を回避するためにも、日頃のスキンシップのなかで「この子は驚いた時にどこに逃げ込むのか」という見当をつけておくことが大切です。そして、その情報を家族全員で共有しておきましょう。
逃げ込む場所が特定できたら、その場所の周辺の家具についても転倒防止対策をしておいた方が良いでしょう。そもそも、家具の転倒防止は飼い主自身の安全のためにも重要です。文鳥のケージ周辺や逃げ込み先周辺に限らず、重い家具や背の高い家具については積極的に転倒防止対策を行っていきましょう。
備え3:窓ガラスの飛散対策
地震による窓サッシのゆがみや暴風による飛来物の衝突などで窓ガラスが割れ、破片が飛散する場合があります。
これはまず人間にとって非常に危険です。例えば就寝中に地震で窓ガラスが割れ、顔面に破片が降り注ぐようなことになってしまえば、家から脱出することさえままならないでしょう。そうでなくとも、家の中にガラス片が飛び散ることで移動しにくくなり、緊急避難の遅れにつながります。
文鳥についていえば、飛散したガラス片でケガをする可能性はもちろん、放鳥時に窓ガラスが割れると、驚いた勢いでそのまま家の外に飛び出して迷子になってしまう危険も無くはないでしょう。
窓ガラスの対策としては、そもそも割れづらい「防犯ガラス」を導入するという手段もありますが、これは大掛かりで大変です。
そこで、「窓ガラスに飛散防止フィルムを貼る」というのが現実的な対策になります。飼い主の寝室や避難経路上にある窓ガラス、文鳥のケージがある部屋の窓ガラスを中心に対策できると良いでしょう。
なお、飛散防止フィルムにはUVカット機能がついているものが多くあります。「UVカットがついていると、文鳥が部屋で日光浴できなくなるから健康に悪影響では?」と思われる飼い主も少なくないかもしれませんが、そもそもガラス越しの日光を浴びても文鳥はビタミンD3をほとんど生成することができません。
UVカット機能があろうとなかろうと、ガラス越しの日光浴自体が理想的ではありません。これを機にビタミンD欠乏症についても知識を深め、日光浴のあり方も見直してみましょう。
参考:文鳥とビタミンD欠乏症
備え4:キャリーケースの練習をしておく
緊急事態には「ケージごと抱えて外に逃げる」という場面もあるでしょうが、やはり移動用のキャリーケースが利用できると何かと安心です。
動物病院での定期検診などで文鳥をキャリーケースに入れる機会があるかと思いますが、こういった習慣を継続することが防災にもつながります。
また、ここでキャリーケースの「練習」をする必要があるのは飼い主も同じです。「いつもお母さんが文鳥を動物病院に連れて行っている」という家庭でも、災害発生時にキャリーケースを扱うのはお父さんになるかもしれません。
キャリーケースはケージに比べると華奢なつくりになっていますから、扱いに注意が必要です。また、普段は分解して収納しているという家庭も多いでしょう。
緊急時に家に居る人がキャリーケースを組み立てることすらできないようでは困りますから、取り扱い方法を皆で理解しておきましょう。
備え5:一時避難セットを用意しておく
文鳥防災の基礎知識編で触れたことですが、ペット防災においては「在宅避難」を主軸に備えを考えるのが基本になります。設備もなく、トラブルになる可能性の高い避難所で避難生活を送るのではなく、できる限り自宅で避難生活できるように備えておこう、という発想ですね。
しかしながら、自宅の安全が確保されなければ避難所に行くしかありません。地震に強い家に住んでいたとしても、土砂崩れや津波、火山の噴火、火災などがあれば、やはり安全な場所まで避難せざるを得ません。
仮に自宅が安全であるとしても、災害発生直後から安全が確保できるまでは一時的に避難所に移動するという可能性は充分に考えられます。そして、「一時的に避難するつもりが、自宅周辺が立入禁止になってしまって文鳥を迎えに行けない」という事態を避けるために、自宅から移動する際には必ず文鳥も連れていく必要があります。
したがって、「在宅避難」を原則としつつも、やはり文鳥用の一時避難セット、あるいは非常持ち出し袋を用意しておくことが重要です。
さて、この一次避難セットに何を組み込むかですが、ここでは「最低限これは備蓄したい」というものに限って紹介します。
1 療法食、薬
環境省の「人とペットの災害対策ガイドライン」の中の「ペット用の備蓄品と持ち出す際の優先順位の例」という項目において、優先順位の第一位にあげられているのが「療法食、薬」です。
大規模災害が発生した場合、鳥用の療法食や薬はまず届かないと考えておくべきです。必要な薬は飼い主が備蓄しておくしかありません。
備蓄量については、「コンパニオンバード No.30」の防災特集記事で「1週間〜2週間分」という目安が提案されています。
なお、薬の名前などがわかるように、薬のパッケージの写真を撮影しておきましょう。薬が切れてしまった場合でも写真で正確な名前が分かれば、新たに調達できる可能性がぐっと高くなります。
2 餌(シード・ペレット)、水
文鳥は慣れないものは食べようとしない子も多いです。普段食べている餌をストックしておきましょう。
水については、水道水と同じ軟水の保存水を備蓄できていれば問題ありません。水道水の硬度は地域によって異なりますし、硬水・軟水の分類基準も様々です。ただ、日本の水道水は「水質管理目標設定項目」として10〜100mg/Lの硬度が設定されていることから、これが一つの目安となるでしょう。
民間企業のデータにはなりますが、全国の水道水の硬度についてのマップも下記のリンク先で確認できます。
心配な方は、住んでいるの地域の水道局のホームページを確認したり直接問い合わせたりすれば、具体的な硬度の数値を確認できるはずです。
備蓄量については、最低でも1週間分(7日分)が望ましいと考えられます。「できれば1ヶ月分」という意見もありますが、一次避難セットとしては7日分でも良いでしょう。
人間の防災備蓄については、大規模災害におけるインフラの復旧スケジュール等から逆算して「最低でも3日分、できれば7日分」という目安がよくあげられます。
文鳥については、体が小さいため餌や水の1日あたりの消費量は少ないです。もちろん羽数次第ではありますが、7日分の備蓄を一次避難セットに組み込んでも軽量で済む場合が多いはずです。
なお、餌は水に濡れないように注意が必要です。チャック式のビニール袋かプラスチック製の密閉容器に入れ、常温で日の当たらない場所に備蓄すると良いでしょう。
3 新聞紙、ガムテープ
先ほども紹介した「コンパニオンバード No.30」の防災特集記事では、東日本大震災で被災したセキセイインコの飼い主さんの実体験として「新聞紙が役に立った」という話が紹介されています。
東日本大震災はまだ寒い3月に発生した大規模災害ですが、新聞紙を重ねてケージを覆うことで防寒に役立ったうえ、ケージを覆うことが鳥たちのパニック・不安の緩和にもつながったと語っています。
もちろん、新聞紙はキャリーケースやケージの敷き紙にも使えます。
この飼い主さんは新聞紙をケージに貼り付けるためにガムテープを使ったそうです。さらに付け加えると、実は環境省のガイドラインでも「ケージの補修など多用途に利用可能」という理由で、ペット用の備蓄品としてガムテープを高い優先順位で推奨しています。
鳥の場合は万が一にもケージが壊れてしまえば逃げて迷子になってしまいますので、ガムテープの優先度はさらに高いと言えるでしょう。ケージやキャリーケースの扉の固定にも使えますね。
4 その他
他にも、キャリーケースを入れられる防寒性のあるバッグ(保冷バッグ等)や保温&目隠し用の布(新聞紙で代用可)、ウェットテッシュのような清掃用具とゴミ袋、温度計などがあると良いでしょう。
キャリーケースが入る大きなビニール袋があると、防寒機能に加えて餌や羽の飛び散り防止になり、避難先で受け入れられやすくなるかもしれません。
避難先で体調を崩してしまった場合や真冬の被災を想定して、使い捨てカイロを備蓄してもよいでしょう。ただし、ビニール袋等で密閉した状態での使い捨てカイロ使用は酸欠のおそれがあるため、取り扱いには注意が必要です。
また、誰かにペットを預けることになる可能性を想定して、「ペット用防災手帳」を書いておくことも様々な文献で推奨されています。
幸い、ペット用防災手帳のテンプレートはWeb上で様々なものが配布されています。鳥専用のものについても、例えば以下のページでPDFデータが配布されています。
あるいは、BIRDSTORYさんで購入できる「Bird Life Line セット」も手軽で良いでしょう。
まとめ
今回は文鳥防災の「災害発生時編」ということで、災害発生の瞬間を無事に乗り越えるための5つの備えをご紹介しました。
この5つの備えを第一歩として、お住まいの地域の状況や居住スタイルに合わせた備えを充実させていって頂ければと思います。もちろん、飼い主の安全があって初めて文鳥も安全になりますので、人間の防災についても知識を深めていってくださいね。
次回は自宅で文鳥と一緒に避難生活を送るための「在宅避難編」になります。
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