文鳥のクチバシの基礎知識
トップ画像:アンニュイな表情でクチバシを見せるぽん先生(@comatsu_cotoLi)
美しく力強い流線型に、凛々しさと愛らしさを兼ね備えた朱色を宿すクチバシは、文鳥のトレードマークです。
クチバシは餌を食べるためだけでなく、呼吸や飛翔のためにも重要な役割を担っています。
ケンカやペアの羽繕いなど、コミュニケーションのためにクチバシが使われているシーンは印象的です。
クチバシの圧倒的なパワーを見せつける文鳥さんの様子
文鳥のクチバシの構造や役割、注意点などについて、詳しく見ていきましょう。
上下の顎の骨をタンパク質であるケラチンが覆うことでツヤのあるクチバシが形成されています。
クチバシは根本にある成長板でつくられ、常に伸び続けています。しかし、文鳥は自らのクチバシを削って手入れしており、一定の長さが保たれています。
ケラチンが骨を覆っていて、削ることで長さが保たれるという点では、爪とよく似ています。
参考:爪について
クチバシの長さを保つ
クチバシは根元の成長板から伸び続けているので、何らかの方法で削って長さを一定に保つ必要があります。
文鳥は上下のクチバシをこすり合わせる「咬耗(こうもう)」を行い、最適なクチバシの長さを保っています。
その他、硬い餌やおもちゃを咬むことで削れたり、巣材になるモノを運ぶ過程で削れたりするという指摘もありますが、一方で硬いものでクチバシを削っているというのは迷信であるとする文献もあり、この点は意見が別れています。
とはいえ、文鳥は人間が何もしなくても自分でクチバシの手入れを行っていることは事実です。
健康な文鳥でも一時的に伸びすぎたりすることはありますが、放っておけば折れてキレイになりますので、後述する病的な状態にならない限りは人間がクチバシの世話をする機会は無いでしょう。
クチバシで殻をむき、虫をついばむ
鳥類のクチバシには、その種の食性が色濃く反映されています。
文鳥のクチバシは太ピンセット型と呼ばれ、植物のタネを取って殻を割るために適した形をしています。
また、文鳥は虫も食べることができる雑食性の鳥ですが、ピンセット型のクチバシは虫をついばむためにも好都合であるといえます。
文鳥のようなピンセット型のクチバシに対して、インコ・オウム類の上顎が伸びたクチバシはペンチ型と呼ばれ、特に硬い殻を割ることに向いています。
呼吸器としてのクチバシ
上のクチバシの根元には外鼻孔、つまり鼻の穴があります。
鼻の穴から吸い込まれた空気は副鼻腔である眼窩下洞(がんかかどう)に流入します。
この眼窩下洞はクチバシから顔面・頭部にかけて迷路状に広がっており、空気と接する面積を増やしています。
また、文鳥を含むスズメ目の鳥の眼窩下洞は鼻中隔(びちゅうかく)によって、左右に別れています。このため、左右で異なる病原体による眼窩下洞炎が起きることがあります。
眼窩下洞に入って湿潤・保温された空気は、後鼻孔を通ります。
後鼻孔はクチバシの内側にあります。威嚇したり甘えたりしている文鳥はクチバシを開きますので、口の中の上側をよく見てみましょう。何かがあるのが分かると思います。
後鼻孔を見せてくれる文鳥さんの貴重な動画
それが後鼻孔で、縦に長いスリット上の裂け目になっています。
その裂け目の縁には後鼻孔乳頭と呼ばれるギザギザの突起が生えており、食べた餌などが逆流するのを防いでいます。
なお、ビタミンAが欠乏すると後鼻孔乳頭が消失してしまいます。
この後鼻孔から口の中に入った空気は、咽頭、喉頭を経て気管に入ります。
このように、クチバシは単に口呼吸の時に開くだけでなく、鼻や気管と密接に関わりながら呼吸を行っているのです。
クチバシは器用で繊細
前足が翼に進化した文鳥にとって、クチバシは人間でいう手のような役割を担っています。
非常に柔軟な頸を自在に曲げることで、全身の羽繕いを行ったり、モノを咥えて運んだりすることができます。
特に羽繕いに関しては、正羽の状態を最適に保ち、しっかりと空気を捉えて飛翔するために不可欠の行動です。
参考:正羽―翼に生える立派な羽
したがって、クチバシは間接的ではあるものの、飛ぶための重要な役割を果たしているといえるでしょう。
また、クチバシには血管や神経が通っており、とても繊細な器官になっています。
文鳥のクチバシの美しい朱色は血の色によるものですし、文鳥の、特に若鳥が何でも咬んでみようとするのはクチバシの神経で感触を確かめているからなのです。
人間の指とたわむれる文鳥さんの様子
このような敏感な器官であるため、クチバシが傷つくと激しく出血したり、激痛のために餌を食べられなくなったりしてしまいます。注意してください。
クチバシの色や形がおかしい?
文鳥のクチバシは上下がぴったり噛み合っていて、ツヤのある朱色になっているのが理想的な状態です。
クチバシの形については、健康な文鳥でも時に横側が伸びてくることがあります。これは上下のクチバシの成長スピードが微妙にずれて一時的に噛み合わせが悪くなっているためですから、放っておけばそのうち整ってきて、伸びすぎた部分は折れてキレイになります。
これとは別に、遺伝や老化によってクチバシの形が変形してしまうことがあります。これはある種の体質や個性だと割り切って、付き合って行く必要があるでしょう。
変形が過度になると食餌や飲水などに支障が出る場合があります。人間によるクチバシの手入れを自宅で行うのは危険です。クチバシを安全にトリミングするためのドリルがありますので、そうした設備を持っており、クチバシのトリミングの経験を有する獣医師に相談しましょう。
上記とは異なり、病気によってクチバシの色や形、ツヤが影響を受けている場合には、急いで獣医師の診察を受ける必要があります。
クチバシの色は血液の色そのものです。健康な時はピンク色~朱色をしていますが、体調が悪くなると青みがかって紅色っぽくなってきたり、色が薄くなったりします。
また、肝障害や代謝異常、ポリオーマウイルス等の感染症、鼻腔に生じた炎症などによって、クチバシの長さが異常になったり、ツヤが失われたりします。
クチバシは羽毛と同様、文鳥の健康状態をよく反映していますので、日頃からよく観察してあげてください。
参考文献
書籍
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