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文鳥の繁殖期に関する研究ノート

頭を抱えるぽん先生
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トップ画像:頭を抱えるぽん先生(@comatsu_cotoLi

文鳥の発情期については、昼の長さが短くなることをきっかけにして始まり、秋から春まで続くと一般的には言われています。

しかし、飼われている文鳥だと年中発情してしまう場合があり、繁殖関連の疾病を起こす原因になっています。

文鳥の繁殖期について、原生地のインドネシアではどうなのか、そして海外の飼育者はどのように考えているのかを調査し、文鳥の繁殖期に影響を与える主要な要因は何なのかを探ります。

日本の文鳥

日本では、文鳥の繁殖期は秋から春であるとされています。

文鳥は短日繁殖の鳥で、光周期(昼の長さ)が短くなることによって発情が促され、繁殖期が始まります。

秋に始まった繁殖期は翌年の春まで続き、夏に換羽を迎えることで終わります。具体的には9月か10月に繁殖期が始まり、4月か5月に終わるとされています。

無論、繁殖を決定する要因は光周期だけではないものの、気温の変化や降雨量などに比べると、光周期が繁殖期の決定要因として強調される傾向が認められます。

実際の光周期の推移に関して、東京を例に確認すると、7月1日には14時間30分程度ある昼の長さが、8月1日には14時間程になり、9月1日には13時間、10月1日には12時間へと短くなっていきます。つまり、8月から9月、9月から10月へと、それぞれ1ヶ月で1時間ほど昼が短くなっていきます。

昼が長くなっていく方も確認しましょう。2月1日には10時間30分ほどある昼が、3月1日には11時間30分、4月1日には12時間30分、5月1日には13時間30分、そして6月1日には14時間30分になります。つまり、4月1日から5月末まで、1ヶ月ごとに1時間ずつ昼が伸びていきます。

外部サイト:2019 Sun Graph for Tokyo

上記より、確かに光周期と繁殖期はおおむね整合していると言えるでしょう。

海外の文鳥

英語のWeb上では「文鳥は条件が整えば年中繁殖可能で多産な小鳥」との認識が一般的なようです。

あるサイトでは「屋外の鳥小屋で飼育されている文鳥は夏の最も暑い時期と冬の最も寒い時期を避けて繁殖するが、屋内飼育の場合は通年繁殖ができる」との記載があり、放っておくとかなりのハイペースで増え続けてしまうことに注意しなければならないとしています。

また別のサイトでは、米国ルイジアナ州の飼育者が、1回の産卵で6羽ほどのヒナを育成し、これを繰り返すことが可能な文鳥の生産性の高さを特筆しています。

「適当な環境を与えれば通年繁殖を行うが、春の繁殖が推奨される」としているサイトもあります。

総じて、極端な気温の高低については多少の言及があるものの、日本のように光周期を気にしている様子は見られません。

書籍文献も調査したい所ですが、文鳥の繁殖期に触れている海外文献を文鳥大学では入手できておらず、今後の調査課題です。

野生の文鳥

文鳥の原生地はインドネシアのジャワ島やバリ島で、高温多湿な熱帯地域です。

原生地では気温の変化や昼間時間の長さは一年を通じてあまり変化せず、降雨量が変化する雨季と乾季の区分があるのみです。

野生の文鳥は乾季の始まり頃から繁殖期を迎えるというのは日本でも海外でも認識は一致しており、例えば日本の国立環境研究所では「原産地では繁殖期は3~8月」としています。

原生地の文鳥および自然に定着している文鳥について、国際環境NGOのBirdLife Internationalが、先行研究を丁寧にまとめた文献を2001年に公表しています。

それによると、「原生地での繁殖期は2月から8月にまで広がるが、特に4月と5月に集中している」とのことです。

以下、5ヵ所の生息地について順に検討していきます。

まずはジャワ等を見てみましょう。例えば西ジャワ州バンドンでは、ちょうど4月から乾季を迎えます。

1-1.バンドンの月別降水量グラフ
Average precipitation (rain/snow) in Bandung, Indonesia

なお、バンドンの気温は年間を通して30度弱で比較的安定しています。

1-2.バンドンの月別最高・最低気温グラフ
Average min and max temperatures in Bandung, Indonesia

また、年間を通して昼間の長さも安定しており、短い時で11時間40分程度、長い時で12時間30分程度となっています。

外部サイト:2019 Sun Graph for Bandung

バリ島での先行研究では4月と7月に産卵が確認されています。

バリ島の気候をデンパサールを代表にとって確認してみると、4月に降水量が一気に少なくなり、9月か10月頃まで乾季であることがうかがえます。

2-1.デンパサールの月別降水量グラフ
Average precipitation (rain/snow) in Denpasar, Indonesia

ただし、雨季・乾季を問わず湿度は80%程度を保ち続けます。

2-2.デンパサールの月別湿度グラフ
Average relative humidity in  Denpasar, Indonesia

デンパサールの気温は年間を通して30度前後で、バンドンと同様に比較的安定しています。

2-3.デンパサールの月別最高・最低気温グラフ
Average min and max temperatures in Denpasar, Indonesia

昼の長さも安定しており、短い時で11時間40分程度、長い時で12時間40分程度となっています。

外部サイト:2019 Sun Graph for Denpasar

なお、デンパサールについては日照時間(太陽が雲や霧に遮られなかった時間)の推移のデータもあります。これによると、乾季を迎えた4月から日照時間が増えている様子が分かります。バンドンでも集計を取れば、同様の推移を辿るでしょう。

2-4.デンパサールの月別日照時間グラフ
Average monthly sunhours in Denpasar, Indonesia

ジャワ島やバリ島といった原生地の他にも、インドネシアには文鳥が定着している地域があります。

ロンボク島では3月に、ロンボク島の隣のスンバワ島では4月に繁殖が確認されています。これらの地域も気候はジャワ島やバリ島と同様です。しかし、ロンボク島で繁殖が見られた3月は雨季の終わりではあるものの、まだ乾季ではありません。

3-1.ロンボク島マタラムの月別降水量グラフ
Average precipitation (rain/snow) in Mataram, Indonesia

スラウェシ島での繁殖は5月、6月、7月、8月、10月に観測されています。

4-1.スラウェシ島マッカサールの月別降水量グラフ
Average precipitation (rain/snow) in Makassar, Indonesia

また、ボルネオ島北西部の東マレーシアに属するクチンでは、1月から2月および9月から10月に繁殖があったと報告されています。クチンは原生地ほど極端に降水量が変化する地域ではなく、繁殖が報告されている1月から2月は最も雨量の多い時期になります。

5-1.クチンの月別降水量グラフ
Average precipitation (rain/snow) in Kuching, Malaysia

なお、昼の長さは年間を通じて12時間程度で安定しており、日照時間は降水量に反比例するように推移します。

5-2.クチンの月別日照時間グラフ
Average monthly sunhours in Kuching, Malaysia

文鳥の繁殖期に関する考察

野生の文鳥の繁殖期を決める要因

以下、上記の情報を基に考察を行います。多分に推測を含んだ仮説・アイデアであるに過ぎない点に注意してください。

まず考慮しなければならないのは、原生地の熱帯に暮らす文鳥は光周期ではなく乾季に入ることによって繁殖期を迎えるということです。

インドネシアでは年間を通じて昼の長さが30分程度しか変動せず、気温も湿度も高い値で安定しているため、季節の変化を感じ取る指標にするためには不都合です。したがって、乾季を迎えたことによる生活環境の変化を、発情期を開始する手がかりにしているのでしょう。

乾季を迎えることによって降水量が減少し、日照時間が長くなります。この気候の変化によって、例えば食料となる植物や昆虫の成長が促されたり、天敵となる動物の行動が変化するなど、文鳥の繁殖に好都合な何らかの変化が起きているはずです。インドネシアの気候と動植物の生態に関して調査することにより、何らかの手がかりが得られると考えられます。

現時点では推測するしかありません。日本の文鳥飼育の常識では、繁殖を促したい場合は繁殖用の栄養餌を与えるべきであるとされています。

ここから推測するに、おそらく乾季を迎えることによって文鳥の餌となる植物が増加したり、動物性タンパク質を代表とする繁殖に必要な良質の栄養の確保が容易になるのでしょう。

栄養状態が改善することによって文鳥の発情が促され、繁殖期を迎えると考えられます。

現代日本に暮らす文鳥の繁殖期

原生地では上記のような生活を送る文鳥が、季節ごとの環境変化が比較的大きい日本に持ち込まれることにより、熱帯では利用できなかった指標を使って繁殖期を知るということは充分に考えられることです。

江戸時代に輸入された文鳥について、明治、大正、昭和と飼育技術が蓄積されていく中で定着したのが、「文鳥は短日繁殖の鳥であり、秋から春にかけて繁殖期となる」という知識であったと推察されます。

しかしながら、江戸から昭和中頃にかけての住環境と、昭和後期から現代にかけての住環境とでは大きな違いがあります。つまり、かつての日本人の住環境は風通しが良く、限られた照明と暖房設備だけを有する木造の日本家屋であったのに対し、現代では密閉性が高く冷暖房および高輝度の照明を有する住宅が一般的になっています。かつての文鳥の繁殖は、専業の者も居たようですが、主に農家の副業として営まれたものです。高価であった文鳥が購入されて飼育される環境も、日本家屋のお屋敷であったと考えるのが自然でしょう。

したがって、かつての文鳥の飼育はほぼ屋外およびそれに類する環境で行われていたと考えられます。光周期の変化はもちろん、気温の変化もほとんど自然のままに文鳥の飼育環境にも訪れていたでしょう。光周期以外にも様々な要因が大きく変動しているため、本当に光周期だけが文鳥の繁殖期に影響を与えているのかは不明です。光周期にあわせて気温が変化する必要があるのかもしれませんし、湿度や日照時間の変動も関与しているかもしれません。もしかすると、光周期の変化に季節の変化を代表させていただけのものが、いつの間にか光周期だけが独り歩きを始めたのかもしれません。

仮にこうした飼育環境下で培われた常識が「文鳥は短日繁殖の鳥であり、秋から春にかけて繁殖期となる」ということなのであれば、現代の文鳥飼育の文脈では情報の更新が必要かもしれません。

現代のように密閉性の高い住宅で屋内飼育される文鳥の飼育環境は、かなり原生地の環境に近づいているのではないでしょうか。高輝度の照明によって冬の短い夜が延長され、気温の変化も冷暖房によって調節されています。無論、飼育者によって文鳥を寝かせる時刻や気温に季節の変化をつけている場合もあるでしょうし、逆に年間通じて全く同じ環境にしているという場合もあるでしょう。しかし、少なくとも季節の変化が直接文鳥の飼育環境に反映されているということは無いでしょう。日本の明確な四季の変化は、人間によって緩和されたうえで文鳥の飼育環境に反映されています。

であるならば、文鳥の発情期を決める要因として光周期のみを強調する現状は、文鳥の飼育者をミスリードしている可能性があります。確かに、光周期は文鳥の繁殖期に影響するのでしょうが、現代的な住環境で屋内飼育されている「一般的な文鳥」の飼育環境を考えれば、原生地での繁殖期に関する情報も強調されて然るべきです。

仮に原生地の文鳥の繁殖期に関する仮説、つまり「栄養状態の改善が最も大きな要因となって繁殖期を迎えている」という仮説が正しければ、食餌の栄養バランスを操作することによって繁殖期をコントロールした方が確実である可能性さえあります。

現に海外では光周期に関しては触れておらず、年中繁殖が可能な鳥として紹介されています。繁殖期を迎えさせたければ栄養餌を使うことも説明されており、海外の文鳥飼育のスタンダードは原生地の文鳥の生態と整合的であると考えられます。

今後の課題

  • インドネシアの気候と動植物の生態について調査する
  • 海外の文鳥の飼育方法について解説している書籍を入手する
  • 栄養状態の変化を主要なきっかけにして繁殖を迎える鳥が居ないか調べる
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