文鳥の栄養学 ― 脂質
トップ画像:講義中にお昼寝タイムを迎えたぽんすけ先生(@torinosimobe)
ネガティブなイメージを持たれがちですが、実は体を健康に保つために欠かせないのが脂質です。
脂質は量のコントロールだけでなく、必須脂肪酸をバランスよく摂取するという「質のコントロール」も重要になります。
文鳥における脂質について詳しく学びましょう。
脂質の概要
脂質は水に溶けず、炭素、水素、酸素で構成されています。タンパク質や炭水化物と並んで「三大栄養素」と呼ばれる重要な栄養素です。
三大栄養素は全てエネルギーとして利用されることがありますが、同じ量の三大栄養素の中で最も高いエネルギーを得ることができるのが脂質です。脂質のエネルギー量は炭水化物や糖質の2倍以上に達するとされています。
脂質は腸から吸収される際に、中性脂肪という形で体内に取り込まれます。中性脂肪がエネルギーとして使われる場合には、分解されてグリセリンと脂肪酸になります。
この「脂肪酸」が、栄養としての脂質を考えるうえでの重要なポイントになります。
飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸
脂肪酸は、化学構造の違いから「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」の2つに大別されます。
飽和脂肪酸は常温で固体であり、一般的に脂肪と呼ばれる形態で存在しています。バターやラード(豚脂)、肉の脂身など動物性脂肪に多く含まれています。
不飽和脂肪酸は常温で液体であり、オイルの形態で存在しています。オリーブオイルのような植物油は、不飽和脂肪酸が主になっています。
脂肪酸の多くは体内で合成することができますが、不飽和脂肪酸の中の一部は体内で合成することができず、食事から摂取する必要があります。「食事からの摂取が必須である」という意味で、「必須脂肪酸」と呼ばれています。
代表的な必須脂肪酸はリノール酸とα-リノレン酸です。人間も鳥も体内で合成することができないため、食事で必要量を補う必要があります。
また、アラキドン酸は体内で合成できるものの、その合成には上述のリノール酸が必要になることから、必須脂肪酸として言及されることが多いです。
必須脂肪酸の欠乏は後述するような様々な問題を起こします。単純な脂質の量だけでなく、必須脂肪酸の含有量も考慮して食生活を考える必要があるのです。
脂質のはたらき
脂肪はエネルギー源としての働きのほか、体内の構成成分として大切な働きをしています。
脂質は、ホルモンや細胞膜、核膜、神経組織などを構成する主要な成分として、体内の様々な場所で利用されています。
また、皮下脂肪として蓄えられることによって臓器を保護したり、体を寒冷から守ったりする働きもあります。
脂溶性ビタミンであるビタミンA・D・E・Kの吸収にも脂質が必要とされます。
植物油や魚油に多く含まれる不飽和脂肪酸には、血液中の中性脂肪やコレステロールを低下させる働きもあります。
不飽和脂肪酸の中でも特に必須脂肪酸は、プロスタグランジンという重要な生理活性物質を合成するために使用されます。
プロスタグランジンはホルモンのような働きを持っています。血圧をコントロールしたり、免疫機能を向上させたり、スムーズな筋肉の収縮運動のために必要であったりと、プロスタグランジンの働きは重要かつ非常に多岐にわたります。
上記のほか、エサのおいしさをアップさせる目的や、ペレット製造の過程において機械の中で飼料が詰まらないようにする目的で脂質が添加されることもあるようです。
脂質を摂り過ぎるとどうなる?
脂質を摂り過ぎると、肥満と高脂血症を引き起こします。肥満は様々な病気のもとになりますから、ぜひ下記の講義を併せてご覧ください。
参考:文鳥と肥満
肥満や高脂血症から脂肪肝を起こして肝臓の機能障害が発生すると、羽毛の変色や変形などの発達異常や、クチバシ・爪の過長と出血斑などが見られるようになります。
過剰な脂質は、カルシウムなど他の栄養素の消化吸収作用を阻害してしまい、栄養失調を助長してしまいます。
参考:文鳥とカルシウム欠乏症
この他にも、心疾患や動脈硬化、脂肪沈着部位の毛引きや自咬などがみられることもあります。
参考:文鳥と羽咬症
脂質が不足するとどうなる?
脂質は飼い鳥の成長とエネルギーの確保のために欠かすことのできない栄養素です。
脂質が不足すると、幼鳥の成長障害が発生したり、エネルギー不足による痩身が発生したりすることがあります。
また、脂溶性ビタミンをうまく吸収できなくなり、それぞれのビタミンに応じた欠乏症を起こしやすくなります。
そのほか、脂質の過剰と同様に脂肪肝になったり、免疫機能の不調により感染症への抵抗力が減退したりします。特に呼吸器系の感染症にかかりやすくなると注意喚起している文献もあります。
必須脂肪酸の不足は、皮膚炎、腎障害、小腸繊毛の形成障害などを引き起こすことがあります。
参考:文鳥と腎疾患
酸敗した脂質に注意
油脂性食品は長期にわたって保存しておくと、空気中の酸素、湿気、熱、光、金属イオン、微生物あるいは酵素などの作用によって、不快な臭いを発し、味が劣化することが知られています。
油脂成分が変化した食品は栄養価値の低下を伴い、さらに酸化が進むと毒性を示すようになります。
これらの油の劣化現象を酸敗と呼びます。
植物油に含まれる不飽和脂肪酸は特に酸敗しやすく、注意が必要です。
酸敗を起こした脂質はそれ自体に毒性があるばかりでなく、体内でアミノ酸と反応してしまい、体が利用できるアミノ酸が減少してしまいます。特に幼鳥では、成長阻害を起こす原因になりかねません。
酸敗した脂質に限らず、腐敗が疑われる食べ物を与えないのは基本中の基本ですが、その毒性をしっかり理解して、改めて注意するようにしましょう。
脂質のバランスを保つためには?
文鳥の主食となるシード(種子類)の脂質含有量は2~5%程度で、これは脂質の要求量をちょうど満たす量になっていると考えられています。
しかし、アーモンドやトウモロコシのような「種実類」には、25%程度の脂肪が含まれています。種実類を常食した場合は、一般的なシード食の文鳥に比べて著しく大量に脂質を摂取することになります。あっという間に脂質過剰になってしまうでしょう。
ではナッツ類やトウモロコシは与えるべきではないのかというと、実はそうとは言い切れません。
シード(種子類)の脂質含有量は適量なのですが、必須脂肪酸の含有量が少ないという弱点があります。脂質の「量」は適切でも、「質」が伴っていないと言えるでしょう。
これに対して種実類の脂質含有量は過剰であるものの、その分だけ必須脂肪酸も多く含有しています。脂質の「量」は不適切でも、その「質」は高いと言えるわけです。
したがって、脂質過剰になってしまうため種実類を常食をさせてはいけないものの、「必須脂肪酸を補う」という明確な目的を理解した上であれば、少量を与えても良いということが分かります。
なお、種実類の詳細については別の講義で解説する予定です。
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